旧き永遠
広い広い砂漠の果て。ダマーヴァンド山の消えぬ砂嵐の下。幾重にも入り組んだ遺跡の奥底。潜り抜けた洞穴のそのまた向こう。うすらと見えた茜色の光を追う。
運が良かった。単に運が良かったと言うには、あんまりにも偶然が重なりすぎていた。偶然と呼ぶには出来すぎた運命のようで、運命にしてはずいぶん遠回りだった。
いたずらにいたずらを重ねた運命の果て、たどり着いたそこをキィニチは「永遠のオアシス」だと思った。かつて恋人が夢のはてとして語った永遠のオアシスは、きっとここだった。実際ここが彼女の語った場所なのかどうかは分からない。けれどもこの夢みたいに美しい場所のことを、「永遠のオアシス」と呼ぶべきだとキィニチは思った。
澄んだ空気が肺腑に行き渡る。風もないのに、冬の朝のように痛いほど澄み切っている。胸がぐうと締め付けられるようだ。気づけばぽとぽとと涙が滴り落ちていた。視界がぐじゃりと歪む。てのひらの底で拭うと、開けた視界はやはり嘘のように美しかった。
「 」
口からこぼれ落ちた名がこの空間に馴染んでいく。
どんなに焦がれたことだろう。砂漠に生まれ、育つということ。小さなオアシスで命を繋ぎ、また小さなオアシスを求めて砂漠を彷徨う。そんな生活を刷り込まれた者が、永遠のはての見はてぬ夢として、尽きぬオアシスに焦がれるのならば……。
キィニチは胸元から小さな包みを取り出した。赤子に触れるようにして布を解くと、恋人の遺品が入っている。砂で傷つかぬようにと布に包んで持っていたが、何度も取り出しては眺め、毎夜握り込んで眠っていたせいで、薄く汚れてしまっていた。
ここに在るのが、正解だったのかもしれない——最初から。
遺品を指の腹でなぞる。常と変わらぬ感覚が返ってくる。
とても綺麗な場所なんだって。そう語る彼女の横顔は美しかった。いつかこの目で見てみたいけど、と諦めたように語るから、やっぱりそれが叶う前に死んでしまった。
最後、もう一度だけ落日に透かして、それを木の根元に置く。ここが永遠のオアシスならば、成長した若木に飲み込まれることも、鳥に啄まれどこかに持ち去られることもないだろう。
そうしてキィニチは立ち上がって、オアシスを後にした。一度も、振り返らなかった。