いつか、ちゃんと教えて

 すっかり目が冴えてしまった。
 瞼を下ろしていても焦りが募るだけだ。諦めてすっぱりと目を開けると、存外に部屋は明るい。窓から差し込む月明かりのおかげだろう。こちらの世界に来た当初は街灯の無い夜が真っ暗に見えていたけれど、今はもうずいぶんと目が慣れた。
 首だけを動かして隣で眠るキィニチの方を見ると、いつの間に寝返りを打ってしまったのか反対側を向いている。いつも朝私が起きる頃には苦しいくらいに抱き込んで眠っているくせに、顔すら見られないのも寂しいものだ。覗き込もうかと思ったが、起き上がるのも億劫だったので、代わりにぎゅうとその背に抱きついた。

「ん」

 微かに低い呻き声が聞こえたが、起きる気配は無い。それならばとキィニチがいつもやっているのを真似して、顔も埋めて深く息を吸い込んでみる。色んなにおいがした。魔除けに吸ったタバコ、お料理に使ったスパイス、乾いた汗。そしてその奥に、微かな血のにおい。
 キィニチが、キィニチとして生きてきたにおいだ。ぼんやりそんなことを考えているうちに、意識のふっと軽くなるような心地がした。あれだけ眠くなかったのに。ああもしかして、いつもキィニチが私を抱き込んでいたのは。


INDEX